2018年6月4日月曜日

POWERS OF TEN

国立科学博物館で開催中の「人体展」に行ってきました。
たいへんな混雑で こんなに多くの人々が人体に強い関心を持っていることに驚き、そして、私がデザインを目指すきっかけとなった 1本のフィルムを思い出しました。

CHARLES & RAY  EAMES (チャールズ&レイ・イームズ)の制作した[POWERS OF TEN]です。
イームズは 20世紀を代表する椅子「イームズ・チェア」のデザイナーとして 今も多くの人に愛されていますが、コミュニケーションの分野でも 多くの優れたデザインを手がけています。
中でもフィルムは、イームズのコミュニケーションに対するさまざまなアイディアに満ちた分野です。

[POWERS OF TEN]は1977年に制作された、極大から微小までの2つの極限までを描いた8分48秒のフィルムです。
芝生で昼寝をしている男性から一定の速度で画面が引いてゆき、銀河系の外側にまで到達します。そこから画面は昼寝の男性まで戻り、今度は男性の手の皮膚から身体の中に入ってゆき、細胞の原子核にまでたどりつきます。



画像:[POWERS OF TEN]日経サイエンス社


このフィルムは40年以上前に制作されたものですから、当時わかっていた最大宇宙世界と最小細胞世界は、現在はさらに多くのことが判明しています。
しかし このフィルムは視覚的には見えない世界を、私たちが理解しやすいように さまざまな工夫やアイディアにより作られています。

その一つが、1mというスケールを基準単位として作られていることです。1mとは ほぼ人の肩から反対側の腕の長さに相当します。チャールズ・イームズは建築家でもありましたので、一定のスケールを用いることが 私たちの理解の助けになることを教えてくれました。
また 「10のべき乗」という単位で全体の画面が進み、その中心にある四角形では、一つ前段階の画像が常に確認できます。

「1mという 人間的なスケールから出発して、だんだんと桁が大きくなる。つまり 0をもう一つ加えるということは どういうことかをじっくりと考える事ができます。宇宙のはるかかなたから旅を始めて人間的なスケールを通り、微小世界にたどりつくこともできるのです。」
とレイ・イームズは言っています。

このフィルムの旅で多くのことを学びましたが、一番印象的なことはスケールの重要性です。
普段の生活にはない距離や重さなどは、数値で示されても理解は難しいものです。
このフィルムではひとが理解できる「1m」という身近な単位と、「10のべき乗」という基準単位を用いること、中心部分の四角形で常に前段階の画像が確認できること。
私たちは画面からこのルールを読み取り、理解の助けとすることができます。このルールのおかげで、広大な宇宙になっても微小な細胞になっても その関係性を見失うないことなく理解できるのです。


目に見えない世界を伝えるには、そこに見る人との繋がり(関係)を伝えることができれば、理解の助けになることを学びました。


参考文献
[POWERS OF TEN]:フィリップ・フィリス モリソン チャールズ・レイ イームズ事務所/日経サイエンス社/1983年
[EAMES DESIGN CHARLES & RAY  EAMES]:イームズ・オフィス/アプトインターナショナル/2001年


1mの腕の長さ
Illustration:[POWERS OF TEN]日経サイエンス社