2019年10月8日火曜日

応量器

風が気持ちいい秋になりました。といいたいのですが、温暖化の進む最近は残暑が10月まで続き、季節が1ヶ月位後にずれているそうです。

秋になると いろいろな行事が行われますが、年に2回 菩提寺で布薩会(ふさつえ)という座禅会があります。今年も秋の布薩会がもうすぐです。布薩会の詳しい説明は長くなるので省きますが、仏教の五つの生活規則 すなわち五戒を守り、仏教徒としての気持ちを新たにする会です。
布薩会では、法話 坐禅 読経 精進昼食 と続きます。難しいことはなく日頃は離れている仏教に思いを馳せます。

静まりかえった居士林での坐禅は短い時間ですが、鳥のさえずりや木々の葉が擦れ合う音まで聞こえてくる静謐な空間です。時折 響く住職の警策(けいさく)の音だけが大きく響きます。警策は坐禅で集中できていない時に「警策を与える」といい肩を2回ずつ、木の棒で打ちます。打たれる人は「警策をいただく」といいます。大きな音がしますが、痛くはなくむしろ気持ちいい位です。参加する布薩会は坐禅体験に近いので、自らが合掌した人にのみ警策を与えます。

静寂の中にうぐいすの声が響きます


布薩会では本堂での読経ののち、昼食として精進料理が振るまわれます。その時に使用する器を応量器(おうりょうき)といいます。禅宗の修行僧が使用する個人の食器です。
応量器という呼び名は曹洞宗で、他宗派では持鉢(じはつ)自鉢(じはつ)と呼ぶそうです。入れ子に重ねられた5枚の容器からなります。材質は鉄または土が本則とされ、木製は禁じられているそうですが、漆をかけたものは鉄製とみなすとして、黒塗りの漆器です。
本来 応量器を用いた食事は厳格な作法が定められており、禅宗における重要な修行のひとつです。粥を受ける最も大きな器は、釈迦の頂骨であるとされ、頭鉢(ずはつ)と呼ばれます。頭鉢は特に大切にしなくてはならず、直接口を付ける事、粗略に扱う事は厳禁とされています。また托鉢の際に布施を受ける器にもなります。

布薩会ではこの作法に法って食事が行われますが、会話をしないことや 定められた作法にしたがいますが、厳格な修行ではなく感謝しておいしくいただきます。
一番大きな器に粥を受け、それぞれ定められた器に汁、香菜(漬物)、副菜が入ります。

参加する布薩会では、一番大きな器に粥ではなく季節の炊き込みご飯が入ります。秋は栗ごはんか銀杏ご飯。春は豆ご飯か竹の子ご飯をいただきます。汁はけんちん汁です。このかまどで炊いた炊き込み御飯とけんちん汁が楽しみで参加します。


美しい漆黒の艶を持った漆器は、大事に扱えばとても丈夫なものです。布薩会で使われている応量器は、100年以上も前から寺で使われているそうです。
器はそれぞれに持ちやすく、たなごころにしっくりと馴染みます。温かい汁も器が熱くなりすぎず、和え物なども汁が残りにくくおいしくいただけます。
美術館や骨董店のような展示品ではなく、100年以上も日々使われる器としての応量器は、とても合理的な器です。


日々ありあまる物に囲まれている暮らしですが、応量器のように最小限のかたちをとりながらも、その使い心地は豊かで なにより食器として そこに盛られる料理をおいしくすることに感動します。
デザインにおいても、あれもこれもと情報を盛りたくなりますが、どこまで引けるか その引き算が大事です。
表現や編集の引き算を考える時に、この器を思い出します。