(前回の続きです)
ヘルベチカの誕生した1950〜60年代は書体はセリフのあるものが主流で、セリフのない書体は珍しく見慣れていなかったためグロテスク(奇怪)な書体とみられ、ヘルベチカの前身となる書体はノイエ•ハウス•グロテスクと呼ばれました。
ノイエ•ハウス•グロテスクが生まれてから、ヘルベチカとして欧文書体の中でも最も有名な書体となるまでには、書体開発にたずさわった多くの人々の努力と、その背景となる多くの出来事がありました。
印刷を前提としたタイプフェイスは、時代の印刷技術に対応せざるを得ないため、大きな変革期をいくつも乗り越えなくてはなりませんでした。
金属の鋳造活字による印刷の時代から、文字のネガを露光して紙に文字を定着させる写真植字の時代になります。
その後 コンピュータによるデジタルフォントの現代まで、印刷技術の大きな技術革新とともに変化してきました。
ヘルベチカも例外ではなく金属活字の時代に誕生しましたが、その後の写植時代、デジタル時代にもそれぞれの印刷方式に対して、個々の字形はもとよりファミリー全体に対してのリデザインを行い進化を遂げてきました。
私たちがアルファベットを目にするときは、単語や文章として認識することがほとんどでしょう。
単語の1字1字の文字の間をレタースペース(字間)と言います。たとえば「A」の次に来る文字が「T」と「H」ではこのレタースペースが変わります。文字によっては詰まって見えたり、開いて見えたりするのです。
さらに 単語と単語の間のワードスペース(語間)、文章として組んだ時には行と行の間のラインスペース(行間)もあり、タイプフェイスによって見え方も変わってきます。
ヘルベチカは1文字1文字の完成度が高いことはもとより、単語としてや文章として組んだ時にその美しさを発揮します。隣にどの文字が来てもレタースペースがとりやすいのです。
ヘルベチカが文字そのものをモチーフとして、ポスターやロゴタイプなどに広く使われる理由のひとつでしょう。
上 ゴルフギアブランド ロゴタイプ
下 同ゴルフボールパッケージ
デザイン:著者
ヘルベチカは完成された完璧な書体といえるかはわかりませんが、私は自分の仕事やアイディアを表現するために最も適した書体だと思います。
デジタルフォントになり、表現メディアが変わることにより文字の表現も大きく変わりましたが、今後さらに大きな変革があっても、ヘルベチカは進歩し続けることと楽しみです。
参考:「Helvetica forever 」ヴォクトール•マルシー/ラース•ミューラー 「タイポグラフィの読み方」 小泉均



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