文字にはタイプフェイス(書体)という 文字のカタチ(字形)があります。タイプフェイスはそのファミリーを通して一貫した特徴と独自の字形を持ちます。
日本語の場合は漢字、ひらかな、カタカナ、数字、役物と言われる表記があり、欧文のアルファベットの場合は大文字、小文字、数字、役物です。
人が文字使い始めたのは諸説ありますが、紀元前4000年位のシュメール絵文字から始まったと言われています。文字を取り巻く長い歴史の中には数え切れないほど多くのタイプフェイスがあります。その中でも今も多くの人に愛され続けているひとつのタイプフェイスについて考えてみたいと思います。
ヘルベチカ[ Helvetica ]という欧文のタイプフェイスがあります。スイスで誕生してから60年以上を経ていますが、今なお高い人気のタイプフェイスです。
ヘルベチカは多くの企業のコーポレート•ロゴタイプやブランド•ロゴタイプとして、ポスター、カタログなどの広告物、本の装丁や雑誌など、現在も広く使われていますので目にしたことがあるかと思います。
私もタイプフェイスとして知っていましたが、大学時代にヘルベチカの文字だけで構成された力強いデザインに、たちまちとりこになってしまいました。
![]() |
| ハース社の宣伝用パンフレット1962年 |
![]() | |
| ギンザグラフィックギャラリー ポスター 2008年 |
ヘルベチカはスイスのエドアード•ホフマンというタイプディレクターが、1950年代にサンセリフ書体としてハース活字鋳造所(ハース社)から発売しました。ヘルベチカの前身です。
その後 1957年にホフマンとタイプフェイスデザイナーであるマックス•ミーティンガーが改良し、ハース社より現在の[ Helvetica ]として世に送り出しました。
その誕生までは多くの経緯やさまざまな人々の関わりなど、伝えるには1冊の本になりそうなほどです。
ヘルベチカはタイプフェイスとしては、強い個性というか強い特徴のない書体といわれています。それゆえに長い年月 幅広い分野で使われ、さまざまな文字組みやデザインにおいても違和感なく存在していると言われます。
しかしヘルベチカ誕生の歴史を知ることで、その書体の持つ力を新ためて知ることができました。
![]() |
| ヘルベチカの見本帳 1960年 ミューラー=ブロックマン |
印刷における文字は、鋳造活字による活版印刷からコンピュータを用いたフォントによるプリント印字まで、印刷の方式は変わっても時代の必要性や空気に応じてさまざまなタイプフェイスを生み出してきました。
ヘルベチカを知るには、誕生当時のタイポグラフィを取り巻くのスイスの社会状況が深く関係してきますので、少し歴史に触れます。
当時ヨーロッパではコンクリートによる建築が登場し、平面においても機能的、無機的に空間を分割するデザインが登場しました。基本となる格子のユニットで面を分割してレイアウトする「グリッド•システム」です。「グリッド•システム」は現代のデザインにつながるレイアウトの基礎となるものですので詳しくは、別の機会に書きたいと思います。
ヘルベチカ誕生の1960年代のスイスは、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語(時代による)という多言語が、公用語として使われていました。そのため公文書や街のサイン表示なども、この4つの言語を同等に扱い表示しなくてはならないという状況でした。
多言語を同一面に組んだ場合、言語によって黒味の差が出にくい書体の必要性があったのです。この条件を満たすのはサンセリフ書体であり、それはヘルベチカの誕生に繋がるのです。
(次回に続きます)
参考:「Helvetica forever 」ヴォクトール•マルシー/ラース•ミューラー 「タイポグラフィの読み方」 小泉均



0 件のコメント:
コメントを投稿