2022年6月18日土曜日

ステーショナリー

 大きなホテルや旅館などで、美しいデザインの便箋や封筒をインフォーメーションブックで見つけたことがあるかもしれません。コーポレート・ステーショナリーです。

企業や組織は自社のシンボルマークやロゴタイプを制定し、そのデザインを生かした便箋や封筒、名刺を持ちます。

この一連の制作物はコーポレート・ステーショナリーと呼ばれ、そのデザインはCI ( Corpolate Identification )として制定されたシンボルマークやロゴタイプを核としたベーシックデザインシステムとして展開されます。ステーショナリーはその代表的な制作物です。

企業の国際化が進み、さらにダイナミックに発展している現代において、CIも変化し再編成される流れがありますが、企業にとってCIのデザイン展開は変化しても、その意味は変わりません。

CIについては次回とし、ここではコーポレート・ステーショナリーについて書きます。


コーポレート・ステーショナリーは 以下の4点が基本です。

•レターヘッド(便箋)

•エンベロウプ(封筒)

•コンプリメンタリー・スリップ(一筆箋、添え状)

•ビジネスカード(名刺)



中心となるレターヘッドの起源は、18世紀初頭にビルヘッドと呼ばれた商取引に使われた請求書(ビル)だったと言われています。

レターヘッドはレター用紙の上部に企業名やシンボルマーク、ロゴタイプなどがアドレスを含め印刷されていることを指しましたが、のちにレターヘッドは上記の印刷された紙そのものを指すようになりました。

レターヘッドは企業の正式な通達として認識されるものですから、その紙の選択、色彩、印刷方式まで非常に注意深く厳選されます。


正式にはレターヘッド専用紙として「透かし」という特殊技法を用いて、ウォーターマークという印を入れた紙が使われます。ウォーターマークはのちに偽造防止と企業の信用保証の印になりました。

ウォーターマークは製紙工程で入れられますが、その種類にはライン・ウォーターマーク(透かして白く見える)とシャドウ・ウォーターマーク(透かして黒く見える)があります。さらにこれを組み合わせた複雑な美術品のようなウォーターマークもあります。

この透かしの技術は紙幣や有価証券などにも用いられ、偽物から本物を守る重要な役目を果たしています。




多色箔押し

レターヘッドには「箔押し」という印刷方式があります。

箔押しには色々なタイプがありますが、メタリックホイル(金属箔押し)とピグメントホイル(色箔押し)の2種類が代表的なものです。シンボルマークやロゴタイプなどを箔押しとすることにより、企業にハクがついてその価値を高めています。

余談ですが「ハクがつく=価値が上がる」という言葉は、箔押しをすることによる高級感、公式感が表現されることから来ているそうです。



コンプリメンタリー・スリップはあまり馴染みがないかもしれませんが、資料やサンプルなどを送る時などにつける送付状や添書きです。日本では昔から一筆箋として使われてきたものと同様です。レターヘッドを用いるまでもない時などにたいへん便利です。

サイズは基本的には、A4の縦1/3が用いられます。


ステーショナリーの各サイズは日本では以下のサイズが一般的です。

レターヘッド     A4(横210×縦297mm)

エンベロウプ    長3横(横235×縦120mm)

コンプリメンタリースリップ    A4(横210×縦198mm)


サイズについてはヨーロッパではレターサイズが使用されていましたが、現在はA版を基本としています。

ビジネスカード(名刺)は、さまざまなサイズが混在していますのでサイズについては省略します。

その他 折り方や色々な工夫があります。たとえばエンベロウプのフタとなる折り目に1cm  ほど糊のない所がありますが、これはレターオープナーを差し込み開けるための工夫だそうです。



現代 CIは印刷メディアに加えWebメディアでも展開され、コーポレート・ステーショナリーも印刷メディアと同様にWebメディアでも企業イメージを伝えるために重要な役割をはたしています。





参考:株式会社ヤマト「CONQUEROR NEWSLETTER」















2022年2月3日木曜日

木の気持ち

夜の街にあふれるさまざまなイルミネーションは、デジタル技術の進歩により主にLEDが使われています。先に開発された赤色LED、黄色LEDとともに青色LEDが加わることで白色まで再現できるようになりました。
最近はクリスマスなどのイベント時期のみならず、ターミナル広場やショッピングモールなどいろいろな場所で大掛かりなイルミネーションを見かけます。

イルミネーションは もともとは電飾と呼ばれていた装飾で、電気を用いた装飾を指します。
装飾としてだけでなく デジタル技術を用いて表示や通信の手段としてイルミネーションを用いることも増え、イルミネーションサイネージと言われます。
そしてあまり高温にならないと言われるLEDを用いたイルミネーションは、生きた樹木の並木などに取り付けても木を傷めないと言われています。


暗い夜空にキラキラと輝く光の並木は圧倒的な存在感なのですが、同じ並木を昼間の明るい光の中で見ると木の幹に無数に絡み付いた電線、電球などその姿は痛ましいものです。
また イルミネーションという言葉は星明かり(星光)を再現することから生まれたということですが、実際にはイルミネーションの強い光は夜空に輝く本物の星明りも弱めてしまいます。
そして 夜間の強い光は人間の健康や動植物の生育にも悪影響を与える場合もあるとも言われています。

最近は大掛かりなため設置が大変なのか、使用しない期間も電線等を外さず無惨な姿のままです。
樹木はわれわれと同じ生き物なのです。
土壌から養分や水分を吸収して、光合成をして生きている生物なのです。

その大切な幹や枝に幾重にも電線が巻きつき、太いテープでコンデンサーが貼り付けられている木もあります。そして細い枝の先にまで電線が絡みついた様子に、息苦しさを覚えるのは私だけではないでしょう。
もし木に伝える手段があったなら「もうやめてくれ!苦しい!」と叫ぶことでしょう。


寒い冬にも細い枝に小さな蕾のふくらみがつき始めます。2月に入れば、だんだん蕾がふくらみを増して、春にはみずみずしい若葉とともに、美しい花が咲き誇るでしょう。
葉が落ちて枝だけのように見えても、そこには若葉の芽や蕾の芽があるのです。
樹木の生きようとする力を削ぐような行為は、人間の傲慢だと言えるでしょう。

一時のイルミネーションの輝きを求めて、生きている樹木を犠牲にすることはもう止めにして欲しいと強く思います。
また、過剰なイルミネーションはエネルギーの浪費にも繋がります。LEDの普及に伴ってイベントの規模が大きくなったり個人家の使用も増え、エネルギーの浪費が増えることにより、ひいてはヒートアイランドや地球温暖化の進行を促している一因とも言われています。
このような問題は光害と言われています。


デザイナーはともすれば 伝えたい!表現したい!ことに目を奪われることがあります。
その結果、痛みや苦しみを与えるようなことがないかを謙虚に考える想像力と思いやりを忘れることがないように願っています。















2021年12月8日水曜日

漢字はおもしろい

日本語における漢字にたいへん興味深い研究者がいます。白川静氏(2006年死去)です。
「漢字の巨人」と言われる氏ですが、その説は難解とも思われていますが「そうだったのかー」というほど斬新な、そして 自由闊達でおもしろい!

グラフィックデザインにおいて、漢字はヘッドラインとしてメインに使う、キャッチフレーズやボディコピーとして使うなど多用します。
前回のHelveticaのように、漢字だけで構成するポスターや装丁のデザインもあります。
文字を扱う時に漢字を深く理解することは、とても大事なことなのです。


文字は生活していく上でも、他の人に意思を伝え、他の人の意図を理解し、必要な知識を学ぶためになくてはならないものです。
漢字は義務教育として小学校からカリキュラムが組まれ、字形を覚え、読みを覚え、書き順を覚え、その意味を学びます。

白川静氏は漢字の研究をたった1人で「字統(じとう)」「字訓(じくん)」「字通(じつう)」という3冊の集大成としてまとめました。この業績がどれほど偉大なものだったか思われます。
白川氏には膨大な著書があり、魅力的な論の展開が書かれていて読むものを魅了します。
漢字を常用し、それをコミュニケーションとして表現するデザイナーは、漢字への理解と楽しさを知ってほしいと願います。

白川氏は著書で「文字の歴史の中で多くの文字が淘汰されていったが、漢字だけの持つ強大な生命力は容易には枯渇しない。漢字には文字が生れる以前の計り知れない、ことばの時代の記憶がある」(要約しました)と言っています。
漢字は言葉としての意味を表すだけではなく、文字本来の成り立ちや意味を記憶として体現しているのです。


古代文字のサイ

白川氏の著書にたびたび出てくる「口(サイ)」という文字があります。(現在の口とは違いますが)このサイという呼び方は白川氏の命名です。
古代の神聖な文書を載書(サイショ)というそうですが、そのサイからの連想だそうです。
「口」という字は顔にある口を指すのではなく、祝詞や呪文のような大事な言霊を書いて入れる入れ物を総称して「サイ」と言ったそうです。

たとえば「言」という文字は口の上に4本の横線がありますが、古代文字では横線ではなく「辛」と書き、大きな針を意味するカタチをしていたそうです。
これは入れ墨の針を指し、神聖な誓いを神に祈って、誓う時の言葉を表したそうです。
「口」はいろいろな漢字に出てきます。「口」は漢字がもともと持つ そもそもの意味に大きく関係してきます。
白川氏は「口」が含まれる多くの漢字を新しく体系化しました。


ここでも何箇所か引用させていただいた「白川静 漢字の世界観」松岡正剛 の著書では「漢字はまさに四角い方形の姿をした「意味の方舟」たちなのです」とあります。
漢字が持つ本来の意味を考えることは、とても興味深くワクワクします。


参考:「文字問答 白川静」 「白川静 松岡正剛」 「漢字は楽しい 小山鉄郎」
図版:「白川静 松岡正剛」 





2021年9月7日火曜日

Helvetica

(前回の続きです)

ヘルベチカの誕生した1950〜60年代は書体はセリフのあるものが主流で、セリフのない書体は珍しく見慣れていなかったためグロテスク(奇怪)な書体とみられ、ヘルベチカの前身となる書体はノイエ•ハウス•グロテスクと呼ばれました。
ノイエ•ハウス•グロテスクが生まれてから、ヘルベチカとして欧文書体の中でも最も有名な書体となるまでには、書体開発にたずさわった多くの人々の努力と、その背景となる多くの出来事がありました。


印刷を前提としたタイプフェイスは、時代の印刷技術に対応せざるを得ないため、大きな変革期をいくつも乗り越えなくてはなりませんでした。
金属の鋳造活字による印刷の時代から、文字のネガを露光して紙に文字を定着させる写真植字の時代になります。
その後 コンピュータによるデジタルフォントの現代まで、印刷技術の大きな技術革新とともに変化してきました。

ヘルベチカも例外ではなく金属活字の時代に誕生しましたが、その後の写植時代、デジタル時代にもそれぞれの印刷方式に対して、個々の字形はもとよりファミリー全体に対してのリデザインを行い進化を遂げてきました。


1967年ポスター デザイン:マッシモ・ヴィネッリ


私たちがアルファベットを目にするときは、単語や文章として認識することがほとんどでしょう。
単語の1字1字の文字の間をレタースペース(字間)と言います。たとえば「A」の次に来る文字が「T」と「H」ではこのレタースペースが変わります。文字によっては詰まって見えたり、開いて見えたりするのです。
さらに 単語と単語の間のワードスペース(語間)、文章として組んだ時には行と行の間のラインスペース(行間)もあり、タイプフェイスによって見え方も変わってきます。

ヘルベチカは1文字1文字の完成度が高いことはもとより、単語としてや文章として組んだ時にその美しさを発揮します。隣にどの文字が来てもレタースペースがとりやすいのです。
ヘルベチカが文字そのものをモチーフとして、ポスターやロゴタイプなどに広く使われる理由のひとつでしょう。




上 ゴルフギアブランド ロゴタイプ
下 同ゴルフボールパッケージ
デザイン:著者

ヘルベチカは完成された完璧な書体といえるかはわかりませんが、私は自分の仕事やアイディアを表現するために最も適した書体だと思います。
デジタルフォントになり、表現メディアが変わることにより文字の表現も大きく変わりましたが、今後さらに大きな変革があっても、ヘルベチカは進歩し続けることと楽しみです。

 参考:「Helvetica forever 」ヴォクトール•マルシー/ラース•ミューラー  「タイポグラフィの読み方」 小泉均









2021年7月8日木曜日

Helvetica

文字にはタイプフェイス(書体)という 文字のカタチ(字形)があります。タイプフェイスはそのファミリーを通して一貫した特徴と独自の字形を持ちます。
日本語の場合は漢字、ひらかな、カタカナ、数字、役物と言われる表記があり、欧文のアルファベットの場合は大文字、小文字、数字、役物です。
人が文字使い始めたのは諸説ありますが、紀元前4000年位のシュメール絵文字から始まったと言われています。文字を取り巻く長い歴史の中には数え切れないほど多くのタイプフェイスがあります。その中でも今も多くの人に愛され続けているひとつのタイプフェイスについて考えてみたいと思います。

ヘルベチカ[ Helvetica ]という欧文のタイプフェイスがあります。スイスで誕生してから60年以上を経ていますが、今なお高い人気のタイプフェイスです。
ヘルベチカは多くの企業のコーポレート•ロゴタイプやブランド•ロゴタイプとして、ポスター、カタログなどの広告物、本の装丁や雑誌など、現在も広く使われていますので目にしたことがあるかと思います。
私もタイプフェイスとして知っていましたが、大学時代にヘルベチカの文字だけで構成された力強いデザインに、たちまちとりこになってしまいました。


ハース社の宣伝用パンフレット1962年


ギンザグラフィックギャラリー ポスター 2008年 


 

ヘルベチカはスイスのエドアード•ホフマンというタイプディレクターが、1950年代にサンセリフ書体としてハース活字鋳造所(ハース社)から発売しました。ヘルベチカの前身です。
その後 1957年にホフマンとタイプフェイスデザイナーであるマックス•ミーティンガーが改良し、ハース社より現在の[ Helvetica ]として世に送り出しました。
その誕生までは多くの経緯やさまざまな人々の関わりなど、伝えるには1冊の本になりそうなほどです。

ヘルベチカはタイプフェイスとしては、強い個性というか強い特徴のない書体といわれています。それゆえに長い年月 幅広い分野で使われ、さまざまな文字組みやデザインにおいても違和感なく存在していると言われます。
しかしヘルベチカ誕生の歴史を知ることで、その書体の持つ力を新ためて知ることができました。

 

ヘルベチカの見本帳 1960年 ミューラー=ブロックマン

 

印刷における文字は、鋳造活字による活版印刷からコンピュータを用いたフォントによるプリント印字まで、印刷の方式は変わっても時代の必要性や空気に応じてさまざまなタイプフェイスを生み出してきました。
ヘルベチカを知るには、誕生当時のタイポグラフィを取り巻くのスイスの社会状況が深く関係してきますので、少し歴史に触れます。

当時ヨーロッパではコンクリートによる建築が登場し、平面においても機能的、無機的に空間を分割するデザインが登場しました。基本となる格子のユニットで面を分割してレイアウトする「グリッド•システム」です。「グリッド•システム」は現代のデザインにつながるレイアウトの基礎となるものですので詳しくは、別の機会に書きたいと思います。

ヘルベチカ誕生の1960年代のスイスは、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語(時代による)という多言語が、公用語として使われていました。そのため公文書や街のサイン表示なども、この4つの言語を同等に扱い表示しなくてはならないという状況でした。
多言語を同一面に組んだ場合、言語によって黒味の差が出にくい書体の必要性があったのです。この条件を満たすのはサンセリフ書体であり、それはヘルベチカの誕生に繋がるのです。

 (次回に続きます) 

参考:「Helvetica forever 」ヴォクトール•マルシー/ラース•ミューラー    「タイポグラフィの読み方」 小泉均

 

 

 

 

 

2020年11月10日火曜日

会話の冗長度

冗長度という言葉があります。そして 冗長度は会話の中にもあります。

正しくは冗長性(冗長量)と言います。情報理論における用語で、あるメッセージを転送するのに使われているビット数から、その情報の必須部分のビット数を引いた値です。
おおまかに言えば、あるメッセージを転送する際に無駄に使われている部分の量を指す。
とウィキペデアでは説明されています。


社会がコロナ感染防止のため日々の生活が変わりました。密閉、密集、密接の3密を守り、ソーシャルディスタンス、マスク、手洗いが必須となりました。
仕事においても ほとんどの会議、打ち合わせがリモートになりました。ウェブ会議のツールは、相手の顔やしぐさなどが見えるとても有効なツールです。
しかし ウェブ会議ならではの、さまざまな困りごとも出てきました。中でも気になるのは、その会議で交わされる会話には、無駄話や横道が少ないことです。会議なんだから必要なことだけでいいでしょう。と言われそうですが、対面の会議では誰かが話をしていて同調すると「ああ!その手があったか」とか「そう そうですよねー」などの相槌を打ったり、逆に「そりゃないでしょ…」などの言葉が入ったり、そこから話が逸れて時には話の横道の方が盛り上がることさえあります。

ところがウェブ会議の場合アプリケーションや設定にもよりますが、画面には話している人が大きくメインに映りますので、相槌や無駄口を挟むと話をさえぎるばかりでなく時には画面をさえぎることもあり、対面会話のように気軽に挟み込むのは憚かられます。
つまり 会話に相槌や横道のような息抜きなどの無駄がないのです。


この相槌や無駄話しは「会話における冗長度」と言ってもいいでしょう。会話に何パーセントの冗長度があるかによって、内容への理解や会話後の印象が大きく違ってくると言われています。
ベテランのアナウンサーや 慣れた司会者がインタビューをしている時の会話は、内容にかかわらず的確な相槌やたとえを入れたりして聞きやすく、主題もすんなりと耳に入ってきます。これに対して 慣れていない解説者や研究者だと本論のみが多く、疲れてしまいます。
これは会話に冗長度が的確にあるか、ほとんどないかによるのです。

車や自転車転のハンドルにも”遊び”と言われる可動域の範囲が設定されています。
いきなりハンドルが、あまり敏感に反応すると危ないのでしょう。これも運転における冗長度と言えるかもしれません。


コミュニケーションには、この冗長度がとても大事なのです。
ウェブ会議では会話の冗長度が、とても低いと言われています。そのためか 会話が硬く、弾まない気がします。
対面の場だと相手の顔の表情や、装飾品だったり持ち物などにも話題が飛んだりして雑談が始まり、楽しい気分や時には興味深いことなどに話が発展することさえあります。
会話の持つコミュニケーション力は、このような「会話の冗長度」とも言える部分にかかっています。


Web会議は、感染症防止としてや遠隔地からのリモートワークが可能になるなど仕事でも私生活でも欠かせないツールです。そして 社会の状況がどのような事態になっても、人と人とのコミュニケーションの必要性はさらに増すとでしょう。
どのようなツール上でも、冗長度の高い豊かなコミュニケーションを作り上げていく方法やルールが、いろいろ出来てくることを願っています。








2020年8月10日月曜日

色と気持ち

私たちは さまざまな自然の色に取りかこまれています。
人が色を知覚するのは、光と目による相互作用です。色の違いは物理学的な測定値がありますが、同時に色は人に感情的な作用も起こします。
詳しい色の解析や理論ではなく、色が人に影響を与える感情面について考えました。

私たちは生活のさまざまなシーンで、色に例えて感情や様子を伝えます。
色に例えることにより、よりリアルに情景や気持ちを伝えることができでしょう。

 ・真っ赤になる
 ・真っ青になる
 ・黄色
 ・腹黒い
 ・真っ赤な嘘
 ・ケツが青い
 ・二才
 ・赤っ恥をかく
 ・顔面蒼白になる



また 私たちは色に対して個人的な嗜好を持っています。多くの人に好まれる色もあれば、あまり好かれない色もあるでしょう。そしてその好き嫌いは、過去の経験やすり込みなどがベースとなった無意識からの感情が多いと言われています。色から生じる感情的な作用を生活に生かすこともできます。


私は なぜか「緑」という色に強く惹かれます。

日本人は古来一つの色に多くの種類(段階)の名称を持った民族です。それらの名称は固有色を指すとともに、それに伴う気持や感情も継承しています。

緑色にもその色味によって数多くの言葉があります。

浅葱色(あさぎいろ)  わずかに緑色を帯びた薄い青
苔色こけいろ)    濃い黒みの萌黄色
萌木(もえぎいろ)   やや黄色みを帯びた緑色
深緑(ふかみどり)   緑の濃い状態を表す 
木賊色(とくさいろ)  青黒い萌黄色 

どの色味の緑色にも多くの人が感じる感情は、気持が落ち着く、安らぐ、清々しい‥‥ などの気持ちを抱くことが多いと思います。


井の頭公園の緑


真夏に作られる「緑のシェード」という蔦植物を使って作る日除けがあります。緑の葉の間からキラキラと木漏れ日がさし、葉の重なりによって淡い若葉のような緑色になったり、葉が何枚も重なることで深い緑色になったりする様が、目にも心にも安らぎを与えてくれます。

他にも緑の植物を用いた塀や壁など、今では植物はいろいろな場に用いられ活用されています。マンションのベランダや狭い所でもプランターで育てることも出来、緑のシェードは猛暑の強い日差しを防いでくれます。ゴーヤやヘチマなどで作れば美味しく収穫もできます。

根津美術館エントランスの竹塀


今は 新型コロナウイルスの猛威にさらされて、心にも余裕がなくなっている気がします。緑色の持つ目にも心にも、安らぎを感じさせてくれる感情面の作用に期待したいと思います。





参考:大辞林 三省堂








2020年6月11日木曜日

ピクトグラムのチカラ

最近 新しいピクトグラムをよく見ます。
トイレや優先席のピクトグラムは毎日見かけていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、感染予防を訴えかける新しいピグトグラムをいろいろな所で見かけるようになりました。

このブログを始める前に、人形町ヴィジョンズの定例マガジンにデザインについて連載していました。その中でピクトグラムについて、その役割や注意点などを書きましたが、今新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、感染を予防し、自らが感染源にならないために、1人1人が行う行動規範を呼びかけたピクトグラムです。

ピクトグラムの基本条件 
● 何を訴えているか一目でわかること(これが一番重要!)
● 表現がシンプルで遠距離からでも視認しやすいこと
 

神奈川県の横須賀美術館に、開館時から使われているオリジナルピクトグラムがあります。エレベータや階段、展示室、トイレなどいろいろな場所に使われている「よこすかくん」です。このピクトグラムはグラフィックデザイナーである廣村正彰氏のデザインですが、新型コロナウイルスの感染拡大に際して、「よこすかくん」に感染予防を呼びかける  4種類の新しいピクトグラムが追加されました。このピクトグラムは公開されているので、廣村氏のホームページからダウンロードすることができます。使用に際する仔細は氏のホームページから確認してください。

・ていねいな手洗い

・マスクの着用
・検温の実施
・ソーシャルディスタンスの確保






「よこすかくん」は階段を上がったり、方向を指差し(腕さし?)たりする動作を表しためずらしいピクトグラムもあります。横須賀美術館は、ガラスとスチールに囲まれた堅い印象の建物ですが、動きのある「よこすかくん」は親しみを感じさせるキャラクターに近いかもしれません。


新型コロナウイルスの感染拡大防止に際して出される指示には、さまざまな意見がありますが、いづれにしても法律や罰則を伴い人々の行動を規制するものではありません。人々を動かすためには、各人が守るべき事を正しく、わかりやすく伝える事が一番大事です。
このような状況で、ピクトグラムはとても有効なツールです。「よこすかくん」の感染防止ピクトグラムの親しみを感じさせる表現は、人々が受け入れやすい表現と言えるでしょう。



新型コロナウイルスについての情報は、毎日のように発信、更新されています。
そして 今後も新型コロナウイルスとの長い戦いが予想される中で、日々 発信、更新される情報をいかに正確に、理解しやすく伝えられるかという 政治家のコミュニケーション能力が問われる時です。



横須賀美術館:yokosuka-moa.jp








2020年3月8日日曜日

デザイナーのできること

新型コロナウイリス感染の勢いが止まりません。
この急速な広がりはもちろん怖いですが、それに伴って起きているトイレットペーパーをはじめとした紙製品、食品などの買い占めはもっと怖いかもしれません。
2011年東関東大震災の発生時に起きたトイレットペーパーの買い占めから、何もかわっていないことに愕然とします。
コミュニケーションに関わるデザイナーはこの事態を冷静に捉え、何ができるのかを考えたいと思います。

新聞のコラムに「予言の自己実現」※ という記事がありました。
ありそうだと思って人々が行動をすることで、本来起こらないはずのことが起こってしまうことがある という意味です。
今起きている事態に警鐘を鳴らし正しい情報を伝えることは、コミュニケーションのプロであるデザイナーの仕事でもあります。

今回は 東関東大震災に起きた買い占め騒動で「買い占め防止ポスター」を制作し、起きている事態をひろく伝え、その防止を誰でもが出来る行動へとつなげたデザイナーの松本隆応さんに 寄稿をお願いしました。


松本さん寄稿文
コミュニケーションデザインを実現するための5つの視点

東関東大震災の買い占め防止ポスター:松本隆応





※毎日新聞 「余録」記事









2019年12月9日月曜日

手ばかり(手秤)

仏手柑ぶしゅかん)という植物の果実から作られた、仏手柑長寿飴という珍しいお菓子がありました。
その実は まるで手のような形で、その形が仏様が合掌した手の形に似ているため、この呼び名がついたそうです。
仏手柑の木を初めて見た時、その形の不思議さに驚きました。

仏手柑はインド原産の果実で、神経を鎮め体内の毒素を出すといわれ、古来より漢方として珍重されています。高貴な芳香を持つ まれなる果実です。」とパッケージにあります。ユズ、カボスなどと同じ香酸柑橘類の一種です。国内では鹿児島でわずかに栽培されているだけの貴重な果実で、観賞用がほとんどですが、生食には向かないため、砂糖づけや飴などの菓子としてや、その効用を生かした漢方薬として使われているそうです。


仏手柑ぶしゅかんの実
仏手柑飴


仏手柑の不思議な形から、手について考えてみました。

日頃 よく使う言葉に「手を尽くす 手秤で見当をつける 手の内を明かす 手を替え品を替え…」など、手にまつわる言葉がたくさんあります。
手がついた言葉は、具体的な事柄を示したり、状況や考え方 意思を表す場合など、さまざまな場面で使われます。
手はほとんどの場合 視野の中にあります。話し言葉の次に、ひんぱんに使われる身体を使ったコミュニケーションのツールといえるでしょう。



たくさんの手のついた言葉の中に「手ばかり=手秤」という言葉があります。
文字どおり辞書では「手に乗せたり、下げたりして、だいたいの重さを知ること」とあります。デザイナーは この「手ばかり」の感覚が鋭敏な気がします。
もちろん 長さはスマホのアプリでも簡単に測れますし、定規やメジャーなどのいろいろな計測の道具がありますが、道具を使わない「手ばかり」は別物です。

正確な数値が必要な場合は道具で測りますが、「手ばかり」の手に乗せたり 下げたりして得られる重さや 長さの感覚は、コミュニケーションを考えるデザイナーには必要な力です。
データでは同じはずのものが、「手ばかり」で手に乗せたり、下げたりしてみると違いを感じる。という経験はありませんか? 私たちは 色や形を見て、同じ条件のものも違って見えたり 感じたりすることがよくあります。
表現を考える時、大きくみせたいのか重くみせたいのか あるいは小さくみせたいのか軽く見せたいのかなど、自分の表現したい内容にはどのような色彩、カタチ、マテリアルなどが効果的かを理解しておく必要があります。


また 身体を使った理解の助けには、長さもあります。個人差はありますが、女性の場合親指から人差し指までをいっぱいに開くと、約18cmあります。前腕のひじから手首までの長さは、足のサイズと同じです。また ほぼ人の腕の長さ(左肩先から右指先まで)に相当するのは1mです。このブログのシリーズ第1回目の「POWERS OF TEN」に書きました。


「手ばかり」だけでなく、自分の身体の物差しを知っておくことは、デザイナーとしての感覚を鍛えます。道具がなくても直感的にいろいろなサイズを考えてみてください。








2019年10月8日火曜日

応量器

風が気持ちいい秋になりました。といいたいのですが、温暖化の進む最近は残暑が10月まで続き、季節が1ヶ月位後にずれているそうです。

秋になると いろいろな行事が行われますが、年に2回 菩提寺で布薩会(ふさつえ)という座禅会があります。今年も秋の布薩会がもうすぐです。布薩会の詳しい説明は長くなるので省きますが、仏教の五つの生活規則 すなわち五戒を守り、仏教徒としての気持ちを新たにする会です。
布薩会では、法話 坐禅 読経 精進昼食 と続きます。難しいことはなく日頃は離れている仏教に思いを馳せます。

静まりかえった居士林での坐禅は短い時間ですが、鳥のさえずりや木々の葉が擦れ合う音まで聞こえてくる静謐な空間です。時折 響く住職の警策(けいさく)の音だけが大きく響きます。警策は坐禅で集中できていない時に「警策を与える」といい肩を2回ずつ、木の棒で打ちます。打たれる人は「警策をいただく」といいます。大きな音がしますが、痛くはなくむしろ気持ちいい位です。参加する布薩会は坐禅体験に近いので、自らが合掌した人にのみ警策を与えます。

静寂の中にうぐいすの声が響きます


布薩会では本堂での読経ののち、昼食として精進料理が振るまわれます。その時に使用する器を応量器(おうりょうき)といいます。禅宗の修行僧が使用する個人の食器です。
応量器という呼び名は曹洞宗で、他宗派では持鉢(じはつ)自鉢(じはつ)と呼ぶそうです。入れ子に重ねられた5枚の容器からなります。材質は鉄または土が本則とされ、木製は禁じられているそうですが、漆をかけたものは鉄製とみなすとして、黒塗りの漆器です。
本来 応量器を用いた食事は厳格な作法が定められており、禅宗における重要な修行のひとつです。粥を受ける最も大きな器は、釈迦の頂骨であるとされ、頭鉢(ずはつ)と呼ばれます。頭鉢は特に大切にしなくてはならず、直接口を付ける事、粗略に扱う事は厳禁とされています。また托鉢の際に布施を受ける器にもなります。

布薩会ではこの作法に法って食事が行われますが、会話をしないことや 定められた作法にしたがいますが、厳格な修行ではなく感謝しておいしくいただきます。
一番大きな器に粥を受け、それぞれ定められた器に汁、香菜(漬物)、副菜が入ります。

参加する布薩会では、一番大きな器に粥ではなく季節の炊き込みご飯が入ります。秋は栗ごはんか銀杏ご飯。春は豆ご飯か竹の子ご飯をいただきます。汁はけんちん汁です。このかまどで炊いた炊き込み御飯とけんちん汁が楽しみで参加します。


美しい漆黒の艶を持った漆器は、大事に扱えばとても丈夫なものです。布薩会で使われている応量器は、100年以上も前から寺で使われているそうです。
器はそれぞれに持ちやすく、たなごころにしっくりと馴染みます。温かい汁も器が熱くなりすぎず、和え物なども汁が残りにくくおいしくいただけます。
美術館や骨董店のような展示品ではなく、100年以上も日々使われる器としての応量器は、とても合理的な器です。


日々ありあまる物に囲まれている暮らしですが、応量器のように最小限のかたちをとりながらも、その使い心地は豊かで なにより食器として そこに盛られる料理をおいしくすることに感動します。
デザインにおいても、あれもこれもと情報を盛りたくなりますが、どこまで引けるか その引き算が大事です。
表現や編集の引き算を考える時に、この器を思い出します。








2019年8月7日水曜日

包装のデザイン

日本は今年も猛暑ですが、夏のお中元、暮れのお歳暮という習慣が現代も続いており、日頃の感謝の気持ちが込められた品は、暑さの中でもいただいても贈っても嬉しいものです。
昔は 相手のお宅まで出向いて挨拶とお中元やお歳暮を手渡ししたそうですが、今は贈る方も、いただく方も簡便な宅配便となりました。お中元やお歳暮の習慣はいつごろからかは諸説あり その是非もありますが、気になるのはその包装についてです。

贈答品の包装は、個別のパッケージ、それを詰め合わせた化粧箱、その箱を包んだ包装紙、掛け紙、配送用の段ボール箱と保護ための緩衝剤、時によっては雨などから守る防水袋など、中身にたどり着くまで遠い道のりです…
また 通販の場合は、商品がかなり小さな10cm四方程度のものでも、かなり大きな段ボール箱に入っていろいろな種類の緩衝材に包まれて届きます。
ていねいなことは好ましいのですが、そのたびに包装ゴミがたくさん出るのが悩みです。


包装には2つの役割があります。
ひとつは 商品の輸送や在庫時の保護や保存を目的とした包装。
もうひとつは 商品の成分や原材料などの情報を伝えたり、その商品の魅力を伝える広告に近い役割を果たすパッケージです。
包装という場合はその両方をさすのですが、私は上記の前者を包装、後者をパッケージととらえています。主にデザイナーが手がけるのは、このパッケージとよばれるデザインです。

今回は気になる輸送時の段ボール箱について考えました。
通常 商品と段ボール箱の間には緩衝剤として、通称プチプチと呼ばれるエアーキャップや発砲スチロールなどが入っていますが、いづれも合成樹脂のため廃棄時に環境への負荷が大きく、最近は生分解性のあるセルロースやコーンスターチ(トウモロコシ原料)などから作られる 環境にやさしい緩衝剤も増えています。
また緩衝剤として別素材を用いる事なく、外箱と同じ段ボールをコンピュータによる綿密な計測により、商品の形状に合わせて切り込みや折り曲げで商品に添わせ、緩衝剤として保護する方法もあります。



先日 かなり大きな重量のある商品が送られて来た時に、この段ボールの緩衝剤が使われていました。
取り出して 山折りや谷折りを広げてみると、テーブルいっぱいになる1枚の段ボール紙になりました。段ボール紙は捨てやすい大きさに折り曲げるのも容易なものです。他の素材を使わず、外包装と同様の段ボールから出来ているこの緩衝剤は環境にやさしいだけでなく、それを廃棄する時のことも考えられた優れたものです。
商品の保護は販売時にも購入時にも重要なことですが、パッケージデザイナーは中身を取り出した後に残る 包装ゴミのことも考えなくてはなりません。



配送段ボール箱と使用時のパッケージを兼ねて簡素化した
ミネラルウォータのパッケージ(デザイン著者



過剰包装の問題は、いろいろなところで取り上げられています。
日本では 和紙という紙の中でも強度や耐水性に優れた素材があり、江戸時代は 贈答にも和紙で包んで水引をかけたり、紐で括ったりして使ったそうです。そして和紙は中身を取り出した後、その強度を利用してエコバックのように他の買い物に使ったりして 再利用したそうです。
また当時は 液体である酒や醤油、油などは、買う人が容器を持参しての量り売りだったそうです。後には 容器であるビンそのものもリサイクル使用される、世界でもまれな優れたシステムでした。社会全体で みんながそれを利用することにより好循環が生まれます。
国連が2030年の目標としている[SDGs(持続可能な開発目標)]の達成を可能にするためには、日本も昔持っていた 優れた社会全体でのリサイクルシステムを再考する機会かもしれません。


今は空気を遮断し脱酸素の調味料ボトルや、片手でも扱いやすいパウチなど優れた機能のパッケージも出ています。
配送の緩衝剤も1枚段ボールのような工夫がされていますが、今後は 社会全体で稼働するリサイクルシステムへの取り組みが期待されます。





※[SDGs(Sustainable Development Goals  持続可能な開発目標)]
2001年に国連が策定した持続可能な開発のための目標。2016年から2030年までに国際社会が取り組むべき、17のグローバル目標とその実現のための169のターゲット目標で構成されている